受験するならSSHやSGHなどの認定校がいい?学校選びの前に知っておきたいこと

SGHやSSHの認定校スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、スーパーグローバルハイスクール(SGH)をご存知でしょうか。

これらは文部科学省が目指す教育改革事業の一環として、文科省が指定校を選定し、従来の指導要領を超えたレベルの活動と一定の成果を求めるという制度です。

学校側は活動にかかる費用として、最大で年1600万円という支援金を受けることができます。指定期間は最大で5年間となっています。

「サイエンス」「グローバル」いずれのワードも子どもたちの将来を考える上では重要なキーワードですね。

学校の肩書にこうしたキーワードが付くのは、それだけでも十分に魅力的ですが、それが「文科省のお墨付き」となれば、さらに箔がつきますし、「わが子も指定校に通わせたい」と親御さんが考えるのも自然な流れかもしれません。

しかし簡単に飛びついてしまって良いのでしょうか。一度しっかりと内容をリサーチしてみましょう。

SSH/SGHとは

さて、SSH、SGHの事業の概要は以下の通りです。

SSHについて

文部科学省では、将来の国際的な科学技術関係人材を育成するため、先進的な理数教育を実施する高等学校等を「スーパーサイエンスハイスクール」として指定し、学習指導要領によらないカリキュラムの開発・実践や課題研究の推進、観察・実験等を通じた体験的・問題解決的な学習等を平成14年度より支援しています。

SSH指定校(77校 うち私立8校、国立2校)

SGHについて

高等学校等におけるグローバル・リーダー育成に資する教育を通して、生徒の社会課題に対する関心と深い教養、コミュニケーション能力、問題解決力等の国際的素養を身に付け、もって、将来、国際的に活躍できるグローバル・リーダーの育成を図ることを目的としています。

SGH指定校(123校のほかアソシエイト56校)

指定校の一覧は文科省HPなどで、記事を読む前に目を通しておくとよろしいかと思います。

文科省のSSH、SGH事業の狙い

文科省はこの事業をどのように位置づけているのでしょうか。

文科省の教育政策としては、かつて大きな注目を浴びた「ゆとり教育」が思い出されます。

導入後の国際的な学習到達度調査(PISAなど)で、日本が軒並み順位を下げたことなどから「ゆとり」は集中砲火を浴び、「脱ゆとり」への路線変更を余儀なくされました。

この文科省の意図は全否定されるほど酷いものではなかったと思いますが、このSSH、SGHは「ゆとり」の変形政策とも感じられるのです。

何と言っても、文科省が目指すのは国際競争力の向上です。

バブル崩壊から「失われた10年、20年」で日本の国際競争力は相当下がってしまいました。

(「もともと日本に国際競争力はあまりなかった」という見方もあります)

世界を動かしている人材

現在、世界経済を動かしているのはシリコンバレー発のイノベーターたちと言われています。

そして彼らを養成したのがハーバードであり、MITであり、スタンフォードなどの、世界レベルの大学です。

ここで学んだ学生の創造力が世界を席巻したのです。

こうした大学には世界中から優秀な学生が集いますが、彼ら、彼女らは決して難しいペーパーテストを突破して入学してきたわけではありません。

アメリカにもSAT (大学進学適性試験) という重要な試験がありますが、それ以外の面接やレポート、ハイスクールからの推薦なども加味して、総合的に判断されて入学を許可されます。

日本のようにペーパーテストだけで合否を決めるというのは世界的にも珍しいのです。

こうして多方面で活躍している優秀な学生が入学し、図書館や寮など、抜群な環境の中で非常によく勉強をします。

こうした学生同士がお互いに刺激し合うことで多くのアイデアが生まれてくるのです。

日本の教育評価

これに対して、日本はどうかと言うとペーパー試験信奉者が多い。何しろペーパーテストは公平ですから、納得感があります。

ペーパーテストが出来る学生は多方面でも活躍ができる可能性が高いという事実に裏打ちされた考え方です。

こちらも決して否定できないと思います。しかし文科省はこのペーパーテスト依存度合いを漸減させて行く意向なのは明らかです。

東大で推薦入試を始めたり、秋入学を実施して海外から有能な学生に門戸を開放したり、いろいろな試みをしているのです。

それもこれも、日本でもアメリカの名門大学のように、多種多様な才能がお互いに刺激しあうことで生み出すシナジー効果を狙うが故の施策と考えられます。

結局、「ゆとり教育」もそうした確たる方針に基づいて提案された施策だったのでしょう。

「学校の勉強だけではなく、様々なことに興味を持ってチャレンジする時間と心の余裕を持ってほしい」と。残念ながらそうした願いは見事に瓦解してしまいましたが…。

SSHもSGHもそうした文科省の「狙い」に裏打ちされていると考えます。

私立中学の特別プログラムとは

学校側の狙い

さて、そうしたSSH、SGH事業ですが、ゆとり教育とは違った点は、ハッキリと学校単位で協力校を指定することでした。

参加希望した学校すべてが指定を受けられるということでもないので、文科省直々の「ご指定」となれば、それだけで名誉なことと考える学校も当然出て来ます。

言い方はよくありませんが「よい宣伝」になるのは間違いありません。

それからもうひとつ、上述しましたが、上限で1200万円/年という支援金が給付されることも魅力です。

指定校には公立高校が非常に多いのですが、今や公立高校も独自色を打ち出さないと生徒を集めにくい状況になっています。

特に県トップ校については、県の威信を賭けて進学実績(つまりは生徒のレベル)を維持したいでしょうから、公立といえどもこの肩書きで優秀な生徒を集められればおいしい話ですし、また1000万レベルの支援金は魅力でしょう。

なぜ、開成も灘もSSH、SGHに参加しないのか

指定校の一覧を見ていただくと、気づくことがあると思います。それは有名進学校(主に私立)がほとんど参加していないことです。

開成も、麻布、武蔵、駒東、栄光もありません。桜蔭もJGも雙葉も、フェリスも豊島岡もなし。関西でも灘、東大寺、神戸女学院も不参加です。東海、久留米大附設、ラサールなどなど、有名私立進学校は軒並み参加していません。

進学校では渋渋、渋幕、西大和あたりしか指定校の中には見られません。

その代わり早稲田をはじめ、大学付属では有名校は散見されます。

では、なぜこのような現象が起きるのか?国を挙げて取り組まねばならない教育改革なのに、なぜ日本のトップレベルの知能を持つ子どもたちはこの事業に参加しないのか?

難関校が参加しない理由

本格的にこの事業に参加して実績を残そうとすれば、中途半端な取り組みでは難しいということがあります。

通常の授業に付け足すレベルでは文科省が望むレベルの実績を挙げることは出来ません。

SSH、SGHに対する文科省の評価は大変厳しいのです。

授業の一環としてカリキュラムを組んで、支援金も使って取り組む必要があります。また教員もそれにかかる時間と労力が半端ではありませんので、人員を増強するなど対策が必要です。

そして生徒も積極的に「学校全体で」参加することが求められます。

実際は一部の生徒のみが活動しているという学校も多いらしいですが、そういう場合は文科省から指導され、改善されなければ指定校から除外されてしまいます。

また指定校はその地域(地元大学、企業)との連携も評価対象となっていますので、研究施設などを自由に使用できるといったメリット(高大連携の施策)がある反面、授業や実験・研究の様子を周辺の学校や教育関係者に公開する義務を負います。

このように大事な大学受験を前に教員、生徒、ともに大きな負担を強いられるのは進学校にとっては正直ツライことです。

私立の有名進学校が参加しない理由はこういう手間を嫌ったためではないでしょうか。

国立、公立、私立それぞれの事情

こうして見ていくと、大学付属校なら確かに取り組みはしやすいかもしれません。

また国立大付属校は、国家事業ですから当然指定を受け模範的に活動をするでしょう。筑附はSGHの幹事にもなっています。

上記した通り公立高校の中でもトップ校などは「優秀生徒への誘い水」という理由もあるでしょうが、県の期待を一身に背負っていますので、肩書きを取りにいかざるを得ないというのもあるのではないかと推測します。

ポジティブに利用する学校、逆に利用される学校。手に負えなくなってしまう学校、それぞれいろいろと事情はありそうですので、お子さんの志望校が指定校の中にあるのなら、個別にリサーチをかけることをお勧めします。

大学実績のよい学校の特徴

学校選びはSSH、SGHとは何かを良く理解して行う

看板としては魅力的に思えるSSH、SGHですが、実際に入学してみると、今度は自分がその看板を支え実行する立場になります。

それを忘れてはいけません。

もし大学受験に重きを置いていらっしゃるなら、却って煩わしく感じてしまうかもしれません。

もしかしたらお子さんの志望校は既に強制的に授業に組み込まれていて、他の教科が割を食っているかもしれません。

取り組みも学校によって千差万別でしょう。例えばSGHなどは海外からの帰国生などが中心に活動をしている学校もあると聞きます。

英語でアドバンテージを持つ帰国生と同等に活動をやっていけるか?

そういうところまで考えた方がよいと思います。

聞くところによると「東大の推薦入試にはSSHやSGHの指定校で積極的に活動した実績が必須だ」という噂が横行しているそうです。

もちろんそれは噂に過ぎないでしょうが、そういう活動で力を発揮できるような学生を取り込みたいというのは、文科省のまさに目指すところです。

今後は大学入試改革とも絡んで来るかもしれませんし、まだまだ不透明な部分が多いので、具体的に何をリサーチしてよいかも判然としませんが、静観中の有名私立進学校の動向などは逐次チェックしておくことをお勧めします。