今や塾の広告の決めフレーズにすらなっている、子どもの「やる気」。
何とか子どもの「やる気」を引き出そうと、日々神経をすり減らしている保護者の皆様も多いかと思います。
当然「やる気」なくして志望校合格など覚束ないでしょう。「やる気」は、目的を達成するために必要な一要素です。
毎日お子さんとケンカ状態では効果的な対策は浮かんで来ません。
冷静さと、広い視野をもって、お子さんの「やる気」を引き出す方法をビジメスマネジメントの観点から考えてみましょう。
目次
ビジネスの世界でも「やる気」は重要
ビジネスの世界でも「やる気」は非常に重要なキーワードになっています。
分野としては企業のマネジメントという方面で特に使われるのですが、従業員をいかに管理するかで、企業の業績に与える影響がまったく違ってくるというのです。
有名な理論で、アメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガーが唱えた「X理論、Y理論」というものがあります。
X理論、Y理論とは
<X理論>
「人間はもともと怠け者であり、責任を取りたがらない。放っておくと仕事をしなくなる」という考え方に基づき、命令や強制で管理し、目標が達成出来れば報酬を与え、出来なければ処罰するいわゆる「アメとムチ」によるマネジメント手法が必要であるという理論。
<Y理論>
「人間は元々仕事好きであり、目標のために進んで働く。自我欲求・自己実現が満足できれば献身的に目標達成に貢献する。条件次第では責任も取る。創意工夫の能力もある」という考え方に基づき、進んで目標達成に邁進できるように仕向けるマネジメント手法が有効になるという理論。
中学受験にX理論もY理論を当てはめてみる
この理論を中学受験方面にシフトしつつ、少し煮詰めていければと考えます。
多くの保護者の方は「うちは典型的なX理論(怠け者)だ。Y理論(勉強好き)なら楽なのに、、、」と思われたのではないでしょうか。
確かにお子さんが自ら進んで勉強してくれれば、こんなに精神的に楽なことはありません。
何とかY理論を導くために、よい方法はないのでしょうか。ビジネス書を読んでいくとX理論とY理論の解説のところには、おおよそ以下のような注釈があります。
- 「『アメとムチ』は上手くいくときもあるが、人間が社会的に自尊心を満たしたいという欲求を持つ場合は効き目がない」とする
- Y理論の言ういわゆる『性善説』は、個人の欲求や目標が企業目標につながり調和するような環境でこそみとめられる
前者を言い換えれば、子どもが「目標とする中学に合格したい(≒社会的な自尊心を満たしたという欲求)」という気持ちがない間は「アメとムチ」はある程度の効き目を持つということになります。
後者については親(≒企業)の目標と子ども(≒個人)の目標が「志望校に合格する」という部分で繋がって調和している環境にあればこそY理論が発現するということです。
子どもにやる気を引き出す方法とは?
これを踏まえて考えると、子どもにやる気を起こさせる最良の方法が見えてきます。
そう、今「やる気が出ない」と言っているお子さんは、最大目標が「志望校合格」に設定されていない可能性があるのです。
もしかしたらお子さんの最大の目標は「早く試験勉強を終わらせること」だったり、「とりあえず親の言う通りにしておく」ことだったりするのかもしれません。
そして、そうだとしたら、待てど暮らせど「やる気」スイッチは入らないでしょう。
あるご家庭では、小学校に上がる前から、お子さんに「中学受験がなぜ必要なのか」、「こういう中学に入学するとどんな将来が想定できるのか」などを折りに触れて話してきたのだそうです。
これは自我欲求・自己実現を喚起するには大変有効な方法だと思います。
やる気が出ない原因を探って対処する
では実際に「やる気が出ない」状況(Y理論に至っていない状況)にどう対処するかを見ていきたいと思います。
もし、お子さんがまだ3~4年生というのであれば、まったく焦る必要はないと思います。上述したように、親子でじっくりと「志望校合格」という目標を共有するために時間を使いましょう。
しかしこれが5~6年生の場合はそんな悠長なことは言っていられません。
かなり焦っているという保護者の方は、以下のポイントをもう一度チェックしてみることをお勧めします。
受験のやる気を引き出すためのチェックリスト
1.時間・空間の環境整備は万全か
「やる気」に影響するのは、「環境」と言っても過言ではないでしょう。
空間としての環境
まず空間としての環境ですが、例えば自宅だとまったくやる気が出ないというなら、塾の自習室を有効利用するなど、お子さんにとってもっとも集中できる環境を見つけてあげる必要があります。
自宅でも自分の部屋だとサボってしまうが、リビングなら集中できるケースはよくあります。
意外かもしれませんが「階段や廊下が一番集中できる」という子も多いようです。体裁に拘っている余裕はないので、気に入った場所でやらせるようにしましょう。
時間としての環境
次に時間的な環境のミスマッチですが「休日に限ってダラダラして成果があがらない」などが典型です。
「たっぷり時間がある」という余裕が「やる気」を削ぐ最大の原因となっています。こういう場合は思い切って勉強以外のことに時間を使ってしまうのもひとつの手です。いわゆる「メリハリをつける」というやつです。
よく「中学・高校で部活を一生懸命やっていた子の方が受験では良い結果が出る」と言いますが、それも「時間がない」という、背水の陣を取ることによって集中力が増すためだと考えられます。
特に隙間時間はメリハリが利いていてとても有効ですので、ぜひ活用しましょう。
2.学習法が合っているか
科目の好き嫌い
科目によってモチベーションが違うお子さんは多いですね。
「国語はよくやるが、算数はやる気がしない」、「○○先生の宿題だけはちゃんとやる」などです。
しかし「算数(国語)なしで受験」というわけにはいきませんので、ここは塾への相談案件となりますが、相性の合う講師をサブでつけてもらうなど、しっかり要望を出してみましょう。
科目の得手不得手は案外講師との相性というケースが多いものです。
勉強のやり方の好き嫌い
授業の復習や間違い直しはまったくやる気が出ないが、過去問は進んでやるというお子さんを何人か知っています。
過去問は塾ごとに「解禁日」を設定して、それまでは手を付けないように指導しているところがほとんどです。まだ履修していな分野があるのに過去問をやってしまって、点数が取れずに自信をなくしてしまう子どもが多いからだそうです。
しかし、せっかく問題を解く意欲があるのだから利用しない手はありません。
これも塾に相談しながらで良いと思いますが、例えば志望校ではないけれど傾向や偏差値が近い学校の過去問を用意してやらせるなど、柔軟に対応してみるべきです。
集団授業塾では日々のカリキュラムがどうしても型に嵌まったルーチンワークになりがちですので、お子さんに合わせてコーディネートしてあげると違った効果が現れるかも知れません。
3.性格が幼くないか
そもそも中学受験をする意味を理解出来ていないという例は思いのほか多いです。
こういうお子さんは、傍からは「やる気」がないように見えてしまいますが、これはどうしようもないことです。
もう覚悟を決めて、上述の「アメとムチ」戦法で押し通すべきでしょう。
その上で、保護者様もお子さんもあまりに疲弊してしまうようでしたら、なかなか難しいとは思いますが、高校受験にシフトすることも含めて塾と相談してみてはいかがでしょうか。
4.その「やる気がない」は本音か
受験を直前にした10~12月によくある「もう受験やめた」「やる気なくなった」は、いよいよ本番を間近に控えて、子どもが不安とプレッシャーに堪えられなくなったときによく見られるケースです。
逃げ道を作りたいという心理が働くのだと思います。頭ごなしに否定するのではなく、不安を取り除いてあげることが大切です。
やる気がない状態が一時的なものか、ずっと継続しているものか、またその時期によっても、お子さんの心理状況は様々です。
本音を探って、適切な対処をしたいものです。
これらの中でひとつでも改善できるものが見つかれば、それを修正をすることで、すべてが順調に回り出すということもあります。
ぜひ改めてチェックをしてみることをお勧めします。
合格へ導くやる気を引き出すためのサイクル
いくつかの塾や家庭教師紹介所の「やる気」に対する取り組み方を見ていくと、小さな成功を積み重ねて、その達成感を糧に、次の目標への「やる気」を喚起するスタイルが多いようです。
その過程を順に並べると以下のようになります。
- まずは簡単で身近な目標を設定
- 個々の生徒に対して、きめ細かな指導
- 目標を達成する
- 達成感がさらなる「やる気」を引き出す
- 少しレベルを上げた目標を設定
- 2に戻る
2から5を繰り返している内に、気がつけば大きな目標が射程圏内に入っているというイメージです。
中学受験で保護者は労を惜しんではいけない
塾の宣伝に「保護者の皆様も労を惜しまないでください」とはさすがに書けないのでしょうが、やはり塾や家庭教師に丸投げしていては、得られる効果も限定的になってしまうでしょう。
お子さんの「やる気」を引き出すために、保護者の皆さんがやらなくてはならないことは非常にたくさんあることを、ここまでの内容から確認していただけたら嬉しい限りです。
まず、「何が原因で『やる気』を見せないのか」から始まって、いろいろなトライ&エラーを積み重ねていくしかないと思うのです。
とりわけ6年生の親御さんの場合は僅かな時間の中で、それをやらねばなりません。
それでも何もしないで嘆き、バトルばかりしていても進展はありませんから、クールダウンして気持ちを切り替えたら、実際に「やる気」のなさの原因を探るため行動を起こしてみましょう。
相手はまだ11~12歳です。保護者のサポートがまだまだ必要なのです。