子どもの学力について、悩むご家庭は多いものです。
もう少しテストで点を取って欲しい、いい学校に進学して欲しい、将来生活に困らないような職業に就いて欲しい、など親の願いは強い一方で、親が上級学校に進んでいないから、学力が低いのはしょうがない、など親の学力と子どもの学力を結び付けて考えてしまうご家庭もあるのではないでしょうか。
今回は子どもの学力について、その中でも最近話題になった「学力と母親の関係」を中心にお話したいと思います。
目次
「学力は母親からの遺伝で決まる」?!
かつての日本には「3歳児神話」という考え方がありました。
3歳までは母親が育てないと、成長に大きな悪影響を及ぼすとされていたのです。
確かに子どもが幼い時期は、成長にとって大切な時期です。
特に「愛着」と呼ばれる信頼関係を築くことは乳幼児期には必要なことですが、今は愛を与え、信頼関係を築くことができるのは、母親だけでなく、子どもの周りにいるすべての人であると考えられています。
このことから、現在は「3歳児神話」という考え方は段々薄れつつあるように感じます。
しかし、ここ数年テレビなどのメディアを賑わせたのが、「学力は母親によって決まる」という調査結果です。
母親としてみれば、そんな大切なことが自分にかかっているとなれば、責任重大、一大事です。
気になる調査結果から見えてくる子どもの学力
この調査というのは、文部科学省が国立大学法人お茶の水女子大学に依頼し、「全国学力・学習状況調査」を基に分析研究した調査研究です。
その調査結果の中に、次のような分析がされています。
親の最終学歴が高いほど子どもの学力が高い傾向が見られる
親の最終学歴が高い方が、子どもの学力も高い傾向が見られるのは、家庭環境にそのヒントがあるかもしれません。
例えば、上級学校に進んだ親は、子どもにもその上級学校での思い出、よかったことを伝えることもあるでしょう。
そうした話しは、子どもたちに上級学校のいいイメージを与え、自然と自分も上級学校への進学を望むようになる可能性があるからです。
また「こんな職業を目指したい」と子どもが言ったときに、具体的に「そのためにはどんな学校を卒業し、その学校に入るためにはどんな勉強が必要で、その勉強はどのようにしたらよいか」、など具体的なアドバイスをすることもできます。
「勉強しなさい」と言われるより、子どもたちにとっても自然と勉強したくなる環境づくりはとても大切なことです。
親の最終学歴と学力の関係
学力調査から数学Bの正答率については、次のような結果が出ています。
小学校、中学校、いずれの教科・問題においても保護者の最終学歴が高いほど子どもの学力が高いという関係が見られます。
高等学校・高等専修学校 | 短期大学・高等専門学校・専門学校 | 大学 | |
父親の最終学歴 | 44.1% | 48.2% | 56.5% |
母親の最終学歴 | 43.3% | 50.6% | 60.0% |
先ほど挙げた「学力は母親によって決まる」というところの根拠は、この部分からきています。
父親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」だと正答率が44.1%、「大学」になると 56.5%となり、その差は12.4%です。
一方母親の最終学歴が「高等学校・高等専修学校」だと正答率が43.3%、「大学」で60.0%となっており、その差は16.7%で、父親の最終学歴にともなう差より大きくなっています。
このことから、「学力は母親の最終学歴に関係する」と言われているのです。
また、アメリカの心理学者のジェニファー・デルガド氏の研究で、「父親の遺伝子は気分や本能を司り、攻撃性などを制御する「大脳辺縁系」と呼ばれる部分に受け継がれやすい。
一方、母親の遺伝子は「大脳皮質」と呼ばれる、記憶・嗜好・陰性・近くなどの認知能力を司る部分に蓄積されやすい。」との結果を示しています。
すなわち、““知性”とされる部分に関わる遺伝子は母から子に受け継がれた時のみ機能することができるとしています。
母親の学力だけではない!「世帯年収」も学力に関係する!?
しかし、「母親の学力」だけが「子どもの学力」に影響を与えているわけではありません。
同じく、お茶の水女子大学が発表した調査結果をみてみましょう。
どの教科、問題においても概ね世帯収入が高いほど子どもの学力が高い傾向が見られる
これはよく言われていることなので、その理由は想像つきやすいかもしれません。
収入が多ければ家計にも余裕があり、塾に通ったり、家庭教師を付けたりする家庭が多くなるからです。
また、世帯収入が多い場合、父親が高学歴のことも多く、「子どもに同じような道を歩ませたい」との願いから教育費にお金をかける場合も多くなります。
しかし、必ずしも収入が多ければ多いほど子どもの学力が高くなるという直線的な関係ではなく、中3では、1500 万円以上の世帯よりも1200 ~1500 万円の世帯の方が生徒の学力が高い。との結果も見られるので、収入と学力は必ずしもイコールの関係にはならないと言えるでしょう。
学力の高い子どもの家庭ほど、子どもの時間の使い方をコントロールし、計画的に勉強させるだけでなく、本や新聞等の活字文化や、外国語や外国の文化に触れる機会を意識的に作っているといえます。
学力が高い家庭が実践していること
各家庭において、早寝早起きなどの「基本的生活習慣」や、「努力の価値」、「道徳」などの大切さなどはしっかり教えている、と答えている一方、学力が高かった子どもたちの家庭と差が大きくなったのが次の点でした。
- テレビ・ビデオ・DVD を見たり、聞いたりする時間などのルールを決めている
- テレビゲーム(コンピュータゲーム、携帯式のゲーム、携帯電話やスマートフォンを使ったゲームも含む)をする時間を限定している
- 子どもに本や新聞を読むようにすすめている
- 子どもと読んだ本の感想を話し合ったりしている
- 子どもが小さいころ絵本の読み聞かせをした
- 計画的に勉強するよう促している
- 子どもが外国語や外国の文化に触れるよう意識している
これをみれば、確かに実行できたらいいな、子どもにさせなきゃ、しなきゃいけないな、と思うでしょうが、実際に実行させ、続けて行っていくということは非常に大変です。
例えば「子どもに本や新聞を読むようにすすめる」ことはできても、それを子どもに実行させるには、まず環境を整えることが必要になります。
本を購入したり、新聞を購入したり、どうすればそれらを読んでくれるか考えたり、親も準備をしなければいけません。
そうすると、どうしても「時間や収入に余裕がある家庭」の方が実行しやすくなります。
そうなると、先ほどの「収入と学力との関係」とも繋がっていきます。
工夫次第で学習環境は作れる
「ある名門中高一貫校に通う生徒に調査すると、75%の生徒の母親が専業主婦であった」との話もあります。
専業主婦でいられるということは、世帯収入が多いことも考えられますし、専業主婦であれば子どもに割ける時間も多くなるでしょう。
ただし、工夫次第ではそうした「収入や時間に余裕のある家庭」にも負けない学習環境づくりは可能だと考えます。
まずは1つでも家庭に合ったものを選び実行させていけるとよいでしょう。
学力は「母親だけ」が影響するのではない
これらをまとめてみれば、確かに「母親由来の遺伝に基づく部分」というのは、子どもの学力と大きく関係しているのかもしれません。
しかし、すべてが母親の影響ではないことも事実です。様々な環境や経験を通して人間は作られていきます。
特に脳の神経細胞は1~2歳で最も発達すると考えられています。その時期に細胞をしっかり増やし、脳神経のつながりを形成する刺激を与えることも大切です。
そしてそれは家庭内だけでなく、家庭外でも行うことができ、母親だけでなく、父親も祖父母も、保育者も地域の人でもできることです。
母親ばかりに重圧を掛けるのではなく、子どもに関係するすべての人が子どもを育てている意識を強く持ち、子どもを見守っていきましょう。